父上。
叶わぬことを申し上げても詮無いことですが、今宵はこうしてあなたと酒を酌み交わしたかった。

何故半妖とその母のためお命捨てなさると詰る私に、一切を語らなかった胸の内はいかほどだったのか。
何故お止めなさらぬと激する私に、一切を黙した母の心情はいかなるものだったのか。

鉄砕牙の結界に阻まれ、触れることも許されず武器ではない天生牙を与えられ、あなたの真意を到底理解できぬままそれでも止まぬあなたへの憧憬と崇拝。
私もまたあなたの息子であるに変わりない口惜しさを言葉に出来ず、混沌とする感情を抱きながら、ひたすらに力を求めるしかなかった。
感情を殺し、情を切り捨てて。

けれど……。
一度だけ自己の抑制を失い、乱れた。
気まぐれで拾った命がかけがえのない命になったとき、皮肉にもそれはこの手をすり抜けようとした。
そして――。
己がのみの執着を離れたとき、父の慈愛を、母の慈悲を理解した。
母にすべてを託したあなたを、すべてを受け入れた母を理解した。
あなたと母の間には確かな絆があった。

そうして得た技、冥道残月破の真実を知ったとき、さすがにあの時はお恨みしましたぞ、父上。
再び霧に霞むあなたの真意を推し量る術もなく、すべてを捨てたその先に、けれど真実を見つけた。
さすが我が息子と悦に入っておられるか、それとも豪快に笑っておられるか。
今ならわかる。
紛れもなく私もまたあなたの息子であり、あなたに愛されていたのだと。
――適いませぬな、あなたには。

りんに出会ったのは偶然なのか必然なのか。
あなたの生き様を必死で否定してきた私に、天は何と気まぐれか。
だがもはやそれはどうでもいいこと。

父上。
明日、私はりんを娶ります。