「どうした小妖怪。今宵は無礼講と言ったはずだ。さあ飲め」
「は……はあ……。有り難いのですが、もうさっきからずいぶんと……」
「しかしなあ、まさかこんな日が来るとは思わなんだな。そうだろう、小妖怪?」
「ですから邪見です……ってわしの話聞いてないし……」
「何か言ったか、小妖怪?」
「……いえ。ですが、あのふたり、いずれこうなることは……」
「わかってた、と申すのか? ほう……どうしてだ?」
(どうしてと申されましても……。ご子息を見てれば一目瞭然かと……)
「これほど高貴で誇り高い一族だから、人間を虫けらと思うのは当然だが――」
(じ、自分で言うか、普通……。さすが殺生丸さまのご母堂さまだけのことはある)
「それにしてもあやつの人間嫌いは半端じゃなかった――もっとも、そうなったのはあの父とこの母のせいでもあるがな……」
「ご母堂さま……?」
「しかし今以上に子どもだったあれに、人間の女に情けをかける父と、それを咎めぬ母を理解しろという方が無理か。なあ、小妖怪」
「……」
「――私とて、決して快く送り出したわけではない」
「……」
「だがな、あの男の目は真剣だった。本気なら仕方あるまい……」
「……」
「ところで刀のことでは、殺生丸はわれらを恨んでおっただろうな」
「そりゃもう……! 父上さまが余計な画策をなさったばっかりにそのとばっちりはぜーんぶわしに――。あっ、いえ、その……」
「よいよい。そなたも苦労したな。この母でさえ手に余る息子によく仕えてくれた。礼を言うぞ。だからもっと飲め」
(だから飲めと言われても……。わし、もう限界……)
「なんだ? 全然飲んでないぞ。私の酌では不満か?」
「めっ、滅相もない!」
「――小妖怪」
「は、はいっ! 飲んでます、飲んでます!」
「殺生丸は――、幸せか?」
「はい。間違いなく」
「そうか……。ならばこれ以上母が言うことは何もない。小妖怪――」
「はい……?」
「これからも頼むぞ」
「ご、ご母堂さま……!」
「ああ泣くな、泣くな。今宵はめでたい夜だ。そんな湿っぽい顔はするな」
「は……はい!」