「あいつは手加減ってもん知らねえのか!?」
相変わらず太刀筋が稚ないな、それでは鉄砕牙が泣くぞ、などと言いたい放題言って、殺生丸は村に来るたび犬夜叉に向かって剣を繰り出す。おかげで年中生傷だらけだ。
「あら、してるじゃない」
自分の旦那がこれほどのめった打ちにあってるというのにかごめは涼しい顔だ。
「死なないようにって、わざわざ天生牙で相手してもらってるんでしょう? これが爆砕牙だったらあんた今頃この世にいないわよ」
恐ろしいことをさらりと言ってのける。
「それにさ、昔は半妖だの恥さらしだのみそっかすだの恥かきっ子って言われてたのにさ――」
いや、そこまでは言われてないし……。
「それが今じゃあんたを異母弟とも鉄砕牙の正統な後継者とも認めてるわけで、だからこうして犬夜叉の剣の腕が上がるようにって指南してくれてるんでしょ。いいお兄さんになったじゃない」
かごめはわかっちゃいない。
あれは八つ当たりの以外の何ものでもない。
村でりんを預かって数年が過ぎていた。
最初のころは殺生丸が村に来ると犬っころのように一日中引っ付いていたりんだったが、最近では村の手伝いをしたり子どもたちの遊び相手になってあげたりで、昔ほど殺生丸にじゃれつかない。
殺生丸はそれが面白くないのだ。
『自分のもの』 と狙い定めたものに対する殺生丸の執着心の強さ、執念深さはかつての鉄砕牙をめぐる攻防や曲霊を執拗に追いつめたことで明らかだ。
りんを 『もの』 と並べるのには些か語弊はあるが、要はりんを独占したいのだ。自分が来た時くらい傍にいろと言いたいところを、さすがにそれは口にしないくらいの分別はあるみたいだが、寛容に受け流せるほど大人でもないらしい。
だからその鬱憤を剣の稽古と称して犬夜叉で晴らしている――としか思えない。
端から見れば殺生丸が来たときに見せるりんの笑顔は最上級なのに。
(そういう方面に関しちゃあいつは疎いからな……)
ふふん、と内心嗤ってみせる。そんなところで優越感を持つのも情けないが、そうでも思わなければ八つ当たりされる自分が不憫だ。
「どこが 『いいお兄さん』 だよ。どうせ何かの憂さ晴らしにおれを弄ぶってんだろうよ」
「本気でそう思ってるの?」
「――どういう意味だよ」
呆れたようなかごめの声に犬夜叉がむっとして聞き返す。わかってないなあ、とかごめが生温い目を犬夜叉に向けた。
「殺生丸は憂さ晴らしに誰かを弄ぶるほど他人に執着するタイプじゃないでしょう? 本当にあんたを疎ましいと思ってたら速攻殺してるわよ」
さらに重ねて酷いことを言う。
だが確かに――。
殺生丸は 『自分のもの』 以外にはおそろしく淡泊だ。というより存在しないに等しい。過去、その最たるものが犬夜叉自身だった。たまたま犬夜叉が鉄砕牙を譲り受けたから殺生丸も犬夜叉と関わるざるを得なかったが、そうでなければ歯牙にもかけなかったか、一族の恥さらしとしてかごめの言う通り抹殺されていたかもしれない。
つまりそれって、逆を言えばおれは――『殺生丸のもの』 なわけ?
「…………」
犬夜叉はそれ以上考えるのが怖かった。
否、脳がそれ以上を考えるのを拒否したようだった。